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執筆者の写真THE CODE 編集部

本邦初のJREITの非公開化(6月)

更新日:2021年8月2日



この記事は「本邦初のJREITの非公開化」に関する連続解説です。

案件の概略はこちら、4月から5月にかけての解説はこちらをご覧ください。


[2021/06/01]


これまで


4月7日、Starwood Capital(以下、SC)に属する投資ビークルがインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人(3298)の全ての投資口を取得し非公開化するためのTOBを開始(4/2に同社が提出した大量保有報告でTOBを予告済み)。買付の下限は議決権の2/3。TOBで取得できなかった投資口についてはスクイーズアウト手続を想定している(所謂、二段階買収)。投資法人の役員会の賛同を得た上での公開買付ではなく、敵対的TOBとなっている。


4月15日、投資法人側の役員会は意見を留保した上で、公開買付期間の延長要請(5/24→7/5)を行うとともに、賛否のための情報収集としてSC側に公開質問を実施、かつ非公開化について投資主の是非を問うべく投資主総会開催(6/30を予定)を発表。


4月22日、SC側は回答報告書をEDINET上公表。回答報告書の要旨は以下の通り。

  1. 公開買付期間の延長要請は拒否(不要)

  2. 公開買付価格は適正

  3. 非公開化後も現在の資産運用会社との契約継続を希望

  4. 事前協議なしのTOB実施こそが投資主に対する透明性を可能な限り高める方法

  5. 強圧性はない


4月23日、投資法人は法的措置に踏み切り、本公開買付の緊急差止命令を裁判所に対して申し立てるよう、行政当局(金融庁長官、証券取引等監視委員会、関東財務局長)に申入。


5月6日、投資法人はTOBに反対することを決議し、かつ資産運用会社の親会社のインベスコ・リミテッドに防戦買いを要請(買付期間:2021.5.7-5.24。買付方法:市場買付その他の方法)。なお、防戦買いは上場維持が前提と想定される。TOBの反対理由は以下の通り。

  1. TOB価格は投資口価額対比不十分

  2. SCのTOB及び非公開化目的に疑義があり、投資主共同の利益を害する恐れあり

  3. 本件プロセスは強圧性を有し、投資主の利益を軽視

これを受け、5月10日、SCはTOB価格を20,000円から21,750円に引き上げ、かつ買付予定株数の下限を発行済投資口数の2/3から55.27%に変更した。下限の引下理由はTOB公表後の調査で判明した運用方針上公開買付に応募しないことが予想されるインデックスファンド保有の投資口数を除いた一般投資主ベースで2/3を超える応募を得ることが適切と判断したことによるとされる。


インベスコ側は5月6日に発表したインベスコ・リミテッドによる防戦買いの結果による大量保有報告を5月13日及び17日に提出、持分を7.06%まで引き上げていたが、本日5月20日、インベスコ側は対抗策として以下を公表。


(1)インベスコ・リミテッドの子会社であるIRE(Cayman)Limitedによる対抗TOBの予告

  • TOB価格22,500円(SCのTOB価格21,750円の3.45%プレミアム)

  • 全ての投資口の買付及び投資口併合によるスクイーズアウト(非公開化)

  • 開始時期は6月初旬から中旬。期間は30営業日

(2)インベスコ・リミテッドの防戦買いの中止

(3)6月30日の投資法人の投資主総会の中止


ただし、対抗TOB開始は下記が主条件とされ、また現在、関東財務局の事前相談中であることも表明。

  1. 投資法人の賛同表明

  2. 金融当局の反対意見の不存在

  3. 買付ビークルの資金調達の最終契約締結

  4. SCのTOBの不成立

当初のTOB期間の最終日であった5月24日、SCはTOB価格21,750円を維持したまま公開買付期間を6月15日まで延長(TOB期間を30営業日から46営業日に延長)。延長理由としては、「本TOBの応募状況等を総合的に判断し、投資主の売却機会を確保し、本TOBの成立可能性を高めるため」としていた。


そして6月1日、SCは更なる一手として、TOB価格を21,750円から、インベスコ側の対抗TOB予告のTOB価格22,500円まで引き上げ、かつ買付予定株数の下限を引き下げることを公表した。同時に投資法人もSCのTOB価格が引き上げられたことをリリースで公表したが、TOB価格の引き上げ後もSCのTOBへは反対のスタンスを貫いている。


所感


インベスコの対抗TOB価格22,500円については、投資法人の賛同表明の内諾を織り込んで公表された価格であると想定することは自然であることから、SCは対抗TOB(及び投資法人の賛同表明)の公表前に22,500円のTOB価格を先んじて提示することで、TOB価格の低さを理由に投資法人がSCのTOBに反対する動きを封じ込めたと言える。これで予告された対抗TOBとSCのTOBとの差異は価格面、ストラクチャー面で差異がない状態となった。ただし、投資法人としてはTOB価格引き上げ後においてもSCのTOBには反対意見の表明を続けていることから、インベスコ側としては更なるTOB価格の引き上げしか対抗手段はないように思える。


今後の注目点


  1. 対抗TOBの詳細ストラクチャー

  2. インベスコ側がTOB価格の引き上げを公表するか?

  3. 更なる第三者の参戦

 

[2021/06/12]

6月11日、インベスコ側はSCへの対抗案として、5月20日のTOB予告の修正提案を発表した。

  1. TOB価格はSCの22,500円を上回る22,750円

  2. TOB期間は6月18日を開始日とし買付期間は26営業日(本日の予告公表日から30営業日)

  3. 買付下限は発行済投資口の54.1%。関連邦人が有する7.1%は応募予定

なお、5月20日に前提条件とされた、投資法人の賛同表明、当局の反対意見の不存在、資金調達の最終契約締結、SCのTOBの不成立については維持されている。


所感


6月1日にSCのTOB価額22,500円に対し、投資法人は反対意見を表明していたことから、インベスコ側が上回る価格で対抗してくることは想定済み。ただ、インベスコ側は再度「TOB予告」という形で、22,750円のTOB価額にて、様子を伺うボールを投げてきた構図。また、予告であることから、投資法人は賛同表明は表明していない。ストラクチャーの面でSCとインベスコ側の差異はないことから、専らTOB価額のみの競争が継続している。なお、正式なインベスコのTOBの開始時に投資法人としては賛同表明をすることになるはずであるので、SCが更なるTOB価額の引き上げに動くのは、投資法人がTOB価額を理由に反対意見を表明することが困難となる、インベスコ側のTOBが正式に公表された後になることが想定される。


今後の注目点


  1. 対抗TOBの詳細ストラクチャー

  2. SC側がTOB価格の引き上げを公表するか?

  3. 更なる第三者の参戦

 

[2021/06/18]

6月16日、6月15日を公開買付期間の最終日とされていたSC側のTOBは不成立に終わり、翌日の6月17日にインベスコ側は予告通り、以下のTOBを実施することを発表すると同時に投資法人は当該TOBに賛同表明した。

  1. TOB価格:22,750円

  2. TOB期間:6月18日-7月27日(26営業日)

  3. 買付下限:発行済投資口の54.1%の4,761,794口

  4. インベスコグループの別の法人が所有している7.1%分は応募契約を締結

  5. 投資法人の非公開化前提(二段階方式-TOBへの応募がなき投資口についてはスクイーズアウト手続を予定)

投資法人は、過去SCのTOBに対しては、TOB価額の不十分性、非公開化目的への疑義、及びスクイーズアウト手続の強圧性を理由に反対していたが、

(i)関係当局にSCのTOBについて強圧性等を理由に裁判所に差し止めを申し立てるよう要請していたが、SCのTOBの終了期間までに当該申立てがなされなかったこと、

(ii)高名な複数の学者らから、スクイーズアウト手続は投信法上でも可能という意見も取得できたこと、並びに

(iii)SC側のTOB開始から74営業日が経過し、対抗TOBの機会も確保され、間接的なマーケットチェックが十分になされていること、

に鑑み、本件買収ストラクチャーは強圧性があるとはいえないと従来のストラクチャーに対する評価を翻し、賛同表明を出した格好となっている。

6月18日の終値は、昨日の終値22,570円対比、0.13%上昇の22,600円となった。


所感


もともとインベスコ側の対抗TOB予告通り、投資法人の賛同表明とともにインベスコ側によるTOBが手続が開始されたことは想定通りの展開であり、サプライズはない。スクイーズアウトを伴う非公開化についても投資法人としては当初の評価を翻し、賛同したことから、スターウッドまたはその他の第三者がインベスコの対抗TOB価額の22,750円以上の価格で更なる対抗TOBを公表したならば、投資法人による反対表明は理論的に困難であり、文字通り価格勝負の状況に突入したと言える。


今後の注目点


  1. SC側がTOB価格の引き上げを公表するか?

  2. 更なる第三者の参戦


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