6月25日、スパリゾートハワイアンズを運営する常盤興産(9675)が日本政策投資銀行より30億円の資本性劣後ローンによる資金調達を行うことを発表した。
「資本性劣後ローン」は、会計上の取扱いは「負債」であるが、通常の借入よりも法的破綻時の弁済順位が劣後する等の一定の条件を充足することにより、金融機関による資産査定における債務者区分上、当該借入に一定の「資本性」を認めるものである。
元々、「資本性劣後ローン」は、2004年2月に金融庁の金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)改訂版で金融機関が保有する債権を資本的劣後ローンへ転換すること(所謂デットデットスワップ)で考え方が示されことに端を発し、2011年の東日本大震災の際の新規融資への活用を経て、2020年5月27日に金融庁公表の「資本性借入金の取扱いの明確化に係る「主要行向けの総合的な監督指針」等の一部改正について」において、新型コロナウィルス感染症による、事業者の事業の再開、回復をさせる過程での資本充実を図る手段として、金融機関が「資本性借入金」を積極的に活用できるよう金融庁としての考え方を明確化したことが今回の積極活用の契機となっている。
足許では新型コロナウィルス感染症で苦況に立たされている業界(飲食、宿泊、旅行等)での活用が多くみられ、民間金融機関のみならず、日本政策金融公庫、商工中金及び日本政策投資銀行のような公的な金融機関でも多くの制度的な枠組みを設定している。
資本性劣後ローンの「資本性」は「債務の永続性」「クーポン支払いの任意性」「破綻時の弁済順位の劣後性」の観点から、「普通株」との類似性に着目して条件が設定されており、
償還期限が5年超で期限一括償還
分配可能額に連動した金利設定(業績連動形、厳しい状況の際には金利が減免乃至繰延可)
法的破綻時の弁済順位が一般債務に劣後していること
が充足されている場合、債務の残存期間により資本とみなす部分の算入割合が決定される。
ただし、投資家に有用と思われる、借入条件の詳細開示はなされる慣行になっていないのが現状である。なお、これまでの「資本性劣後ローン」の主な活用局面は、金融危機や天災、または今般のコロナ禍等の「有事」で打撃を受けた事業体の救済的な文脈での活用が概ねであり、「守りの資本調達」の局面で活用されてきた歴史は否めない。
一方、似たようなコンセプトで「ハイブリッドローン/社債」がある。これは、内外の格付機関が負債の発行体の信用格付をする際に、一定の条件を充足する劣後債務に「資本性」を格付機関が付与するものであり、主にシニア債務格付けが投資適格である本邦大企業に「希薄化しない資本性資金」として活用されている。
その資金使途はM&A資金や自社株買いとともに行う資本再構成(リキャピタリゼーション)など「攻めの資本政策」にも多く活用されており、株式発行の「資本コスト」は高いということが本邦企業にも強く意識されていることが背景にある。また、新規の発行の段階で調達条件の開示もある程度はなされ、社債については流通利回りも一定程度観察されているところである。
現状の「資本性劣後ローン」の活用方法は新型コロナ対策が中心の「守りの資本政策」が多いことは致し方ないが、経済が正常化した「平時」においても、ハイブリッドローン/社債同様、「攻めの資本政策」としての活用が期待される。
なぜなら、格付の取得の有無によるクレジット投資家の裾野の違いにより、非希薄化型資本調達の活用の企業間格差が出ることは致し方ないものの、その格差は本邦金融機関の「目利き力」により解消されることが望ましいと考えられるからである。
「資本性劣後ローン」の金融機関による取組態勢については濃淡があり、一部金融機関では自己資本規制のリスクウエイトの観点から「資本性劣後ローンの金利は一律●%以上」という運用をしている先もあると聞く。格付を有していない企業が「資本性劣後ローン」を「攻めの資本政策」として積極活用するためには、金融機関の「目利き力」と「値付力」の向上が不可欠であり、「平時」の「資本性劣後ローン」の活用事例が増えることで資本市場が進化し、「資本コスト」にかかる投資家と企業との対話の幅が、より一層広がることが望まれる。
【用語解説】
劣後ローン…銀行からの借入による通常のローンよりも株式に近く、資本性が強い借入金のこと。劣後特約付ローン、ハイブリッドローンともいう。(出典:野村證券株式会社 証券用語解説集)
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