top of page
執筆者の写真THE CODE 編集部

ツクルバ、第三者割当による新株発行

更新日:2021年9月1日



6月30日、ツクルバ(2978)は、佐護勝紀氏およびワングローブキャピタルを割当先とする第三者割当増資により、新株を発行すると発表した。主な発行条件は以下の通り。


払込期日:2021年8月6日

発行株式数:普通株式1,250,000株

発行価額:1株につき800円(6月29日終値701円対比、14.12%のプレミアム)

調達額:1,000,000,000円

希薄化率:12.66%

割当予定先:佐護 勝紀 250,000株

      株式会社ワングローブキャピタル 1,000,000株

資金使途:中古・リノベーション住宅流通プラットフォーム「cowcamo」のサービス

     ラインナップの強化及び事業拡大のための人件費、採用費、マーケティング費



本案件は、一般的な第三者割当増資と比して、①割当先の属性、②発行価額の水準、の2点において特徴的である。


上場企業における第三者割当増資の目的は、引受投資家との事業面におけるシナジー創出(資本業務提携等)や業績不振や財務危機時における救済が事例としては多く、したがって、割当先は事業会社であることが多い。


一方、本案件の割当先では、当社代表である村上浩輝氏がかねてから親交のある佐護勝紀氏と瀧口浩平氏の投資会社であるワングローブキャピタルであり、事業上の直接的なシナジーがない一個人の要素が強い。


佐護氏はゴールドマンサックス証券の取締役副社長・副会長、ゆうちょ銀行の代表執行役副社長、ソフトバンクグループの取締役副社長を歴任、瀧口氏は医療テクノロジーベンチャーであるメドレーの創業社長とともに著名人である。ベンチャー企業における資金調達では、著名人が個人で第三者割当引き受けることは散見されるが、上場企業において創業者等以外で個人が引き受けることは一般的には珍しいのではないだろうか。


また、第三者割当増資は一般的に市場での取引価格対比、一定のディスカウントで条件決定されることが多いのに対し、本案件では発行決議日の前日終値対比約14%プレミアムと時価より高い水準である。


一般的には、第三者割当によって生じる株式の希薄化、将来の売却時点における流動性リスク等に鑑みて、直近の株価に対して一定のディスカウントをかけた水準で発行価格が決まることが太宗であり、約14%のプレミアム水準は高い水準であると言えるだろう。大規模な第三者割当など支配権の移動を伴うものについては、コントロールプレミアムを加味して一定のプレミアムが付されるケースはあるが、本案件はそのような事例とは異なる。


上記2点を考慮すると、事業面の明確なシナジーのない著名な個人が、長期的な保有を前提に現在の株価水準よりも高い水準で第三者割当を引き受けたことになり、同社の成長性に関する市場への強いメッセージ発信となるだろう。リリース上は、両氏が時価以上での不利発行を引きうけた理由が明瞭ではないため気になるところではあるが、発表翌日の同社株価は一時ストップ高を記録し、前日比77円高の780円(+10.95%)となった。


なお、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードの観点で、今回の発行価額水準と投資家属性の関連を見ることもできる。


一般的に、割当先が事業会社やファンドを含む機関投資家の場合、前者はコーポレートガバナンス上の事業会社の株主に対する取締役の善管注意義務、後者はスチュワードシップ・コード上の「運用機関」としての「受託者責任(フィデューシャリーデューティー)」を果たす必要があることから、上場株については時価以上の水準で株式を引き受けることを正当化することは事業シナジー等を説明できない限りは難しい。


一方、本件の佐護氏やワングロープキャピタル(瀧口氏の個人の投資会社)への割当はスチュワードシップ・コード的に言えば「受益者」への直接的な割当であるので、事業会社や運用機関の場合と異なり、フィデューシャリーデューティが関係がなく時価より高い水準での引受けが可能であるということもできるだろう。


 

【用語解説】

第三者割当増資…会社の資金調達方法の一つであり、株主であるか否かを問わず、特定の第三者に新株を引き受ける権利を与えておこなう増資のこと。(出典:野村證券株式会社 証券用語解説集


最新記事

すべて表示

Comments


Commenting has been turned off.
bottom of page